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定期的に発信している「ポスドク・助教関連のニュース解説」のコーナーです。
今回は、ニュースイッチ 日刊工業新聞に掲載されていた「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」(2022年8月11日)について解説していきます。
- 【中国の学術論文】
中国の論文数が米国を抜き世界1位に - 【日本の学術論文】
日本の論文数・非引用率の順位は低下、特許出願数は引き続き1位を維持 - 【日本の特許出願】
日本の特許出願数は世界一位を維持 - 【日本の若手研究者】
ポスドクの環境整備は十分と認識、博士後期課程進学者は著しく不十分と評価
【中国の学術論文】中国の論文数が米国を抜き世界1位に
記事内容の1つ目は、「中国の論文数が米国を抜き世界1位になった」というお話です。
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査で、中国の自然科学系論文の質が向上し被引用率がトップ10%と同1%論文数で米国を抜き世界1位になったことが分かった。
「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」
ー ニュースイッチ 日刊工業新聞
中国の自然科学系論文の質が向上しており、トップ10%論文とトップ1%論文の数が米国を抜いて1位になったそうです。
昔から中国の論文数の伸びは凄まじく、「いつかはアメリカを抜くかもしれない」と言われ続けてきました。
ただし昔の中国は、ヒト・カネをつぎ込んで質の低い論文を量産していたため「中国は特殊だから無視しても問題がない」という話をよく聞いたものです。
しかし、今回の結果は単なる論文数ではなく、被引用率が高い、つまり他人から参考にされるような質の高い論文(トップ10%論文、トップ1%論文)の論文数がともに世界一位になっています。
いよいよ中国に負けていることに言い訳ができない状況になっており、日本含め諸外国は中国の研究環境を正面から真剣に見習うときが来たのかもしれません。
2022年7月には、上海が5,000人以上のポスドクを大規模に募集しているというニュースが流れました。
単に人数が多いだけでなく、500万円~700万円に提示年収のボリュームゾーンがあり、最高提示年収は1,400万円にもなるそうです。
また、福利厚生も充実しており、多くのポジションで家賃手当やマンションの支給があるとのこと。
日本のポスドクは年収300万円~400万円(税引前)、福利厚生も貧弱な契約条件で雇われる事が多いので、中国の研究者への待遇は手厚いと言えます。
研究環境を整備し続けている中国が論文数世界一位になったのは当然だと言えますね。
【日本の学術論文】日本の論文数・非引用率の順位は低下
記事内容の2つ目は、「日本の論文数・非引用率の順位は低下した」というお話です。
これによると日本の研究開発費は17兆6000億円と世界3位を維持。だが論文数は全論文で4位から5位へ、トップ10%補正論文では10位から12位、トップ1%補正論文では9位から10位と、いずれも前年度調査から順位を落とした。
他国の論文が増える中、横ばいの日本は相対的に順位が下がっている。
「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」
ー ニュースイッチ 日刊工業新聞
中国が世界一位の論文数になった一方で、日本の順位は質、量ともに低下しているそうです。
日本の研究環境に対しては、これまでに多くの問題点が指摘されてきました。
- 若手研究者のほとんどは任期付きポジション
- ポスドク、助教の給料が低い、福利厚生も貧弱
- 運営費減少が止まらない
- 昇進するほど事務作業・雑務が急増
- 競争的資金獲得のための申請書作成に追われてメインの研究活動を進められない
etc…
私自身も大学で博士過程、ポスドクをしているときに、このような指摘のほとんどが事実であることを実感しました
日本の順位が低下し続けていることは、これもまた必然なのかもしれませんね。
【日本の特許出願】日本の特許出願数は世界一位を維持
記事内容の3つ目は、「日本の特許出願数は世界一位を維持している」というお話です。
特許出願数は日本は世界1位を維持した。2カ国以上で出願しているパテントファミリーの数は10年前から首位にあり、26%のシェアを持つ。日本の特許が引用している日本の論文は物理や材料、工学が多く、科学と技術の結びつきが強い。
「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」
ー ニュースイッチ 日刊工業新聞
日本の論文数順位は低下していますが、特許出願数は世界一位をキープしているそうです。
昔から日本の特許出願数は世界一位を維持しています。
これはアカデミアが頑張っているというよりも企業が力を入れて技術開発をしている成果で、メーカー業界や化学業界の大企業を中心に、積極的に特許を出願し続けてきました。
分野にも依りますが、企業研究所のほうが相対的により良い研究環境でモチベーション高く研究活動をおこなうことができる場合も多くなってきています。
アカデミアだけにこだわらず、企業研究所も含めて幅広く将来のキャリアを考えてみることが重要になっていています。
【日本の若手研究者】ポスドクの環境整備は十分と認識、博士後期課程進学者は著しく不十分と評価
記事内容の4つ目は、「日本の若手研究者の環境整備」に関するお話です。
若手研究者の自立・活躍のための環境整備についておおむね十分と認識が改善した。伊神センター長は「ここ数年の若手重視の政策の効果が見えてきている」と説明する。コロナ禍で進んだ研究交流や教育などにおけるリモート化については十分という認識であり、研究活動が全体としてはポジティブに変わったといえる。
ただ次の世代となる博士後期課程進学者については著しく不十分との認識であり、引き続き改善が求められる。
「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」
ー ニュースイッチ 日刊工業新聞
今回の調査結果によると、日本の若手研究者の自立・活躍のための環境整備についておおむね十分という認識になっているとのことです。
これについては個人的に大きな疑問符が付きます。
確かに、数年前からポスドクと研究機関とのマッチングをおこなう卓越研究員制度や、若手研究者に長期間研究費を提供するJST創発的研究支援事業などがスタートしてきました。
ただし、これらの制度は競争倍率が非常に高く、ほとんどのポズドクや助教は制度の恩恵を受けられずにいます。
ぱっと見で充実していそうな制度のみを見て、「若手研究者に対する環境整備は十分」と認識しているのは大変危険だと感じます。
また、「博士後期課程進学者については著しく不十分」との認識のようです。
確かに、世界の博士学生は増加する一方で、日本の博士学生は減少傾向にあります。
しかし、そもそも博士学生のキャリアの先にあるポスドクの環境整備が不十分な状態で博士進学者が増えるはずもありません。
無理やり奨学金制度などで博士学生を増やすとしても、その先の環境整備が整っていないのは無責任ではないかと思うのです。
ポスドク1万人計画と同じ未来しか見えませんね…
今回の
- ポスドク等の若手研究者の研究環境は十分
- 博士進学者は著しく不十分
という2つの認識は、今後また国が誤った政策を進める可能性が高まるという意味で非常に心配になる調査結果だと感じました。
【まとめ】日本アカデミアの研究環境は厳しい状況が続く…
本記事では、ニュースイッチ 日刊工業新聞に掲載されていた「論文被引用率、中国が世界1位に…日本は?」(2022年8月11日)について解説してきました。
- 【中国の学術論文】
中国の論文数が米国を抜き世界1位に - 【日本の学術論文】
日本の論文数・非引用率の順位は低下、特許出願数は引き続き1位を維持 - 【日本の特許出願】
日本の特許出願数は世界一位を維持 - 【日本の若手研究者】
ポスドクの環境整備は十分と認識、博士後期課程進学者は著しく不十分と評価
中国の研究環境が充実しその成果も数値で見えてきている一方で、研究環境が悪化している日本の研究力は相対的に低下しています。
アカデミアにいる若手研究者の環境整備はまだまだ不十分であり、さらなる改善が求められます。
現在ポスドクをされている方々は不安に感じる状況が続いていますが、少し視線を外に移してみると最近は日本でもポスドクに対する企業需要が高まっています。
今ポスドクの方は、一歩踏み出せば年収が高く、福利厚生も充実していて、任期もない企業研究職に転職できる可能性が十分あります。
もちろん、大学のメリットもたくさんあるのですぐすぐ結論を出すのは難しいと思います。
まずは忙しい研究活動の間の空き時間を見つけて、自分自身のキャリアを考える時間を作ってみてはいかがでしょうか?
転職を支援してくれる専門サービスも存在します。
職務経歴書へのアドバイスや面談対策、日程調整まで細かにサポートしてくれますので、本気で転職を考えている人は是非調べてみてくださいね
以上で、ポスドク・助教関連ニュースの解説は終わりです。
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お疲れ様でした!