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【独自解説】「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?【ポスドク・助教関連ニュース@アカラボ】

【独自解説】「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?【ポスドク・助教関連ニュース@アカラボ】

※記事内には一部PRを含む場合があります

定期的に発信している「ポスドク・助教関連のニュース解説」のコーナーです。

今回は、BUSINESS INSIDER JAPANに掲載されていた「「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?」(2022年6月22日)について解説していきます。

記事の要約

本記事の信頼性

本記事の筆者は、大学のポスドク(特任助教)を経験した後、現在は企業研究職へ転職し研究活動を続けています。大学、企業で研究してきた経験をもとに、ポスドク関連ニュースを解説していきますね。

【研究機関のクラウドファンディング】国立天文台がクラファンで3,000万円超の研究資金を獲得

クラウドファンディング

記事内容の1つ目は、「国立天文台がクラウドファンディングで3,000万円超の研究資金を獲得した」というお話です。

そんな世界最先端の研究の一翼を担っている日本の観測拠点の1つ、国立天文台VLBI水沢観測所が、資金難を理由にクラウドファンディングを実施している。

クラウドファンディング最終日である6月17日までに、目標としていた1000万円を大きく上回る3000万円超の資金が集まり、プロジェクトは「大成功」したと言える。

学術系クラウドファンディング_20220622

「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?
 ー BUSINESS INSIDER JAPAN

国立天文台がクラウドファンディングを実施し、3,000万円以上もの資金を集めたそうです。

3,000万円といったら科研費の基盤研究A程度の金額になりますので、大変大きな研究費になりますね。

また、科研費などの国からの研究費と違い、用途制限も緩いと考えられますので、研究者としては非常にありがたい研究費となります。

最近は様々な分野でクラウドファンディングが流行っています

ガジェットやアクセサリー、経済支援事業、動物保護、医療支援など、あらゆる事柄で資金獲得の1選択肢となっているのです。

私自身も何回かクラウドファンディングに参加しており(支援側)、黎明期のワイヤレスイヤホンやスマホから自宅の鍵を開閉できるガジェットなどの開発をサポートした経験があります。

まさひろ

新たな未来を創る一助になるという感覚があり、大変ワクワクした記憶が残っています

クラウドファンディングはまさに「未来への投資」である点で注目され盛り上がっており、そのような意味では未来をより良くするための学術研究は非常に相性が良い分野であると言えますね。

【研究予算不足】「選択と集中」で研究機関各所の研究費が削られる

選択

記事内容の2つ目は、「選択と集中で研究機関各所の研究費が削られている」というお話です。

国立天文台、水沢VLBI観測所の資金難は今に始まったことではない。人類史上初めてブラックホールの姿を捉えたことを発表した翌年にあたる2020年には、国立天文台で水沢VLBI観測所の予算を半減する方針が決まりかけた。当時はその後、追加予算が配分されることになり、ことなきを得た。

予算に限りがある以上、観測所間で配分される予算には差を付けざるを得ない。

「その中で水沢のような少し古い施設には、なかなか予算が回ってこないんです」(本間教授)

「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?
 ー BUSINESS INSIDER JAPAN

「選択と集中」によって配分予算に差がつけられているため、国立天文台の水沢VLBI観測所では予算が減らさられてきた現実があるそうです。

私が所属していた地方国立大学でも「選択と集中」の弊害は強く感じていました。

面白い研究をしている先生はたくさんいたのですが、どうしても東大を始めとする旧帝大や国研の先生方が持っている実績に勝てず、競争的資金をなかなか獲得できない先生が多くいました。

運営費交付金も年間20万円程度しか無く、実験系の研究はまともに進められない状況でした。

国によって進めてきたアカデミアにおける「選択と集中」によって、莫大な研究費を獲得し使い道に困っているような大御所と、その他大勢の貧乏研究者の2極化が進んでいます。

企業研究所であれば、テーマとして存続していれば、どのチームもある程度まとまった研究資金が投入される場合が多いです。

まさひろ

企業研究職へ転職したあとに、アカデミアの貧富の差は異常だったのだと気付かされました…

【ポスドクの減少】資金難で「ポスドク」の雇用を減らさざるを得ない状況に

研究者

記事内容の3つ目は、「資金難でポスドクの雇用を減らさざるを得ない状況になっている」というお話です。

観測所としての機能は維持しなければならない。しかし、資金はあまりない――。

そのしわ寄せがいくのが人件費。観測所の将来を担うはずの若手の研究者、いわゆる「ポスドク」の雇用を減らさざるを得ない状況になってしまったわけだ。

「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?
 ー BUSINESS INSIDER JAPAN

先程紹介したような資金難のしわ寄せが人件費にいき、ポスドクの雇用を減らしているとのことです。

ポスドク1人の月給は30万円程度になる場合が多いので、年間で400万円程度必要になります。

年間400万円もの人件費を支出できる研究予算は限られていますので、資金難になると真っ先に人件費を削るのは自然な流れです。

そのような中でクラウドファンディングで人件費にも充てやすい研究費を獲得できると、非常にありがたい資金源になりますね。

今回のように3,000万円も獲得できるのであれば、複数人を複数年契約で雇うことも可能になるだろうと思います。

ただ、ポスドクの雇用問題については、給料が低い任期付きポスドクが増えすぎていること自体がそもそもの問題であり、テニュアポジションを増やす、あるいは給料をもっと引き上げるような施策を打ち出す必要があるだろうとも感じます。

【学術系クラウドファンディング】100以上の大学・研究所がクラファンに取り組む

クラウドファンディング

記事内容の4つ目は、「100以上の大学・研究所が学術系クラウドファンディングに取り組んでいる」というお話です。

READYFORがこれまでに支援してきた大学・研究所関連(以下、学術系)のクラウドファンディングのプロジェクトは約200件。合計支援金額は約14億円にものぼる。過去最高支援額は約5000万円だ(平均支援額は約650万円)。

その後、同じ仕組みを他大学や研究機関に広げており、2022年6月の段階で提携先の大学・研究所の数は40を超えた。トライアルで実施する大学などを含めると、100以上の大学・研究所と連携している。READYFORを介して実施される学術系クラウドファンディングの数も、年々増加を続けている。

「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?
 ー BUSINESS INSIDER JAPAN

最近は大学や研究所がクラウンドファンディングに積極的に取り組むようになっており、これまでに100以上の大学・研究所がプロジェクト支援サービスに連携しているそうです。

冒頭でも述べましたが、未来をより良くする学術研究は未来に期待して投資するクラウンドファンディングと非常に相性がよいです。

個別の研究室、研究者単位でも参加しているところも増えてきましたので、今後このような情報がさらに広まれば、爆発的に学術系クラファンプロジェクトが増加すると推測されます。

【資金源の選択肢】運営費交付金以外の資金調達手法も増やすべき

財布

記事内容の5つ目は、「運営費交付金以外の資金調達手法も増やすべき」というお話です。

国立天文台・水沢VLBI観測所の事例では、SNS上で「国の研究機関なのだから国が支援すべきではないか」という声も多く聞かれていた。ただ、町野氏は次のように語る。

「国から運営費交付金も増えた方が良いとは思いますが、『それ以外』の資金調達の手法も、それはそれで増やすべきなんだと思います」

クラファンの資金のポイントは、その自由度の高さだ。国からの研究費(いわゆる科研費)は、資金の使途が限られることも多く「使いにくい予算」と言われることも多い。クラファンで得た資金は、いわば「かゆいところに手が届く資金」として活用できる。

「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?
 ー BUSINESS INSIDER JAPAN

最後に、今回紹介したクラウドファンディングのような資金調達手法を増やしておくべきというアドバイスが記載されていました。

一般的な大学の先生方は科研費や財団研究費をもとに研究を進めていますが、これらは使用用途が限られている場合が多く使いづらいという問題があります。

企業との共同研究費やクラウドファンディング、あるいは大学発ベンチャーなどで資金を調達することで、より自由に多様な研究を進めることが出来るようになります。

私自身は、ポスドク(特任助教)から企業研究所へ転職したあとに、自社費用の自由度・使いやすさに感動しました。

まさひろ

今回紹介したような学術系クラウドファンディングの広がりによって、学術界にいる先生方も自由に使える財源を積極的に獲得する流れができていくのかもしれませんね

【まとめ】日本アカデミアの研究環境は厳しい状況が続く…

本記事では、BUSINESS INSIDER JAPANに掲載されていた「「資金難で切られるポスドク」学術クラファンは日本の科学を救うのか?」(2022年6月22日)について解説してきました。

記事の要約

最近は研究所、大学の資金難でポスドクなどの人件費が真っ先に削られる状況にあります。

今回の記事のようにクラウドファンディングのような新たな研究費獲得制度の広まりによってある程度改善される可能性もありますが、根本的な若手研究者の環境整備にはまだまだ長い時間が必要であると考えられます。

現在ポスドクをされている方々は不安に感じる状況が続いていますが、少し視線を外に移してみると最近はポスドクに対する企業需要が高まっています

今ポスドクの方は、一歩踏み出せば年収が高く福利厚生も充実していて、任期もない企業研究職に転職できる可能性が十分あります。

もちろん、大学のメリットもたくさんあるのですぐすぐ結論を出すのは難しいと思います。

まずは忙しい研究活動の間の空き時間を見つけて、自分自身のキャリアを考える時間を作ってみてはいかがでしょうか?

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まさひろ

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以上で、ポスドク・助教関連ニュースの解説は終わりです。

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