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定期的に発信している「ポスドク・助教関連のニュース解説」のコーナーです。
今回は、ファイナンシャルフィールドに掲載されていた「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」(2022年5月30日)について解説していきます。
- 【ポスドク問題の実態】
ポスドクは非常勤研究員となるため立場が不安定で、アルバイトなどを掛け持ちする研究員もいる - 【ポスドク問題の原因】
ポスドクの人数が増えすぎたことや、受け皿となる大学や企業がいないことが原因 - 【ポスドクの給料】
人文社会系が平均21万円/月、工学系が33万円/月。賞与や、社会保険も無い。 - 【ポスドク問題の解決】
2016年度から始まった「卓越研究員制度」に期待。文部科学省が中心となり、企業や研究機関とポスドクのマッチング事業を行う。
【ポスドク問題の実態】ポスドクは非常勤研究員となるため立場が不安定
記事内容の1つ目は、「ポスドクは非常勤研究員となるため立場が不安定」というお話です。
ポスドクとは、ポストドクターの略で大学教員などになる前に、研究者としての技術や経験を積むために、国内や海外の大学などで働く非常勤研究員のことです。一般的にポスドクの期間は1年から数年程度で、大学教授の道へ進む場合、助教へと登ります。
しかし大学教授の人数や、企業が積極的に採用しないため、長い期間ポスドクに留まっている人が多くなっています。ポスドクは非常勤研究員となるため立場が安定せず、アルバイトなどを掛け持ちする研究員もいます。
「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」
ー ファイナンシャルフィールド
任期付きの非常勤研究員のため立場が安定しないことと、ポジションが空いていないためポスドク期間が長期化することが問題であると説明されています。
実際に、現在はほとんどのポスドク、助教ポジションは任期付きになっていおり、1年~5年以内に次のポジションを探す必要があります。
そのため、任期付きの研究者は以下のようなデメリットを被ることになってしまいます。
- 【精神面】40代頃になるまで不安定な生活が続くため精神的につらい
- 【移動費】研究室を引っ越しするための費用負担が大きい
- 【研究規模】目先の成果獲得に走りがちになる
- 【家庭】結婚や出産子育てなどの将来的な家族計画を立てづらい
短期間の任期付きポジションであることによって、研究者のプライベート面、研究推進面ともに大きな弊害が出ているのです。
【ポスドク問題の原因】ポスドクの人数が増えすぎた/受け皿となる大学や企業がいない
記事内容の2つ目は、「ポスドクの人数が増えすぎた/受け皿となる大学や企業がいない」というお話です。
ポスドク問題は、ポスドクの人数が増えすぎたことや、受け皿となる大学や企業がいないことが原因です。
また最近では中国政府や企業において、日本のポスドクなどの若手研究員を破格の待遇で招致しており、研究者の流出が起きています。ポスドク問題は、すでに社会問題化しており、さらに研究者の流出も加わって経済安全保障問題にまで発展していくことが考えられます。
「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」
ー ファイナンシャルフィールド
ポスドク問題の原因は、ポスドクの人数が増えたこと、およびポスドクを任期無しポジションへ採用する大学や企業が少ないという説明です。
文部省が1996年度から始めた「ポスドク1万人計画」によってポスドクの人数が2倍程度増加したにも関わらず、国が想定したほど大学・企業がポスドクを採用するポジションを用意しなかったことから、多くのポスドクがあぶれてしまっています。
実際に私がポスドクをしていたときも、大学の准教授や教授ポジションが全然動かなかったり、大学が支出を抑えるために新規採用を凍結しているという現実を目の当たりにしており、30歳を超えても不安定なポスドクを続けている人を多く見てきました。
ただ、「企業が積極的に採用しない」という点については最近様子が変わってきており、近年は理系ポスドクを中心に中途採用でポスドクを採ろうとする動きが活発化しています。
2022年現在、人工知能(AI)やデジタルトランスフォーメーション(DX)、マテリアルズインフォマティクス(MI)、カーボンニュートラルなどのような大きな変革のタイミングにあり、企業もそれらを取り込んだ「変化」が求められています。
コロナ流行を境に、ニュースやネット記事でも「変化が求められる企業」のような言説で語られることがさらに多くなってきましたよね
先が見えない変革の時代を生き抜くためには、常に最新の情報にアンテナをはり、新たなアイデアを生み出し続ける能力やバイタリティを持った人材が必要になります。
この需要にピッタリの能力を持ち合わせているアカデミア人材は急速に企業需要が高まっているのです。
実際に私の周りでも、転職活動を開始してすぐに大企業から採用されたポスドクや助教の事例を何件も見てきました
【ポスドクの給料】人文社会系が平均21万円/月、工学系が33万円/月、賞与や社会保険も無い
記事内容の3つ目は、「ポスドクの給料」についてのお話です。
研究分野別の平均給与になっており、人文社会系が低く21万3000円で、工学系が高く33万円です。10万円以上の差が開いている理由は、人文社会系では無給の場合も多いことから平均値が低くなっています。また賞与や、社会保険もありません。
助教や講師になれば年収は上がるものの、ポストがないため難しいのが現状です。ただし、企業によっては、研究している内容や分野によっては採用してくれるところがあります。自分の研究分野と合致した職種で採用しているのを見つけられれば、安定した収入になるでしょう。
「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」
ー ファイナンシャルフィールド
ポスドクの給料が約20~33万円/月で、賞与や社会保険が無いという説明です。
給料はおおよそ上記の範囲に収まるのかなと思います。
ちなみに、有名な日本学術研究会の特別研究員(PD)でも36万円/月の支給です。
私自身も、ポスドク(特任助教)のころは30万円/月(税引前)の給料をもらっていました
賞与無しの人が多いのも事実です。
ポスドクは、多くの場合年俸制(支給は12ヶ月で割って各月支給)で契約する場合が多いので、賞与の支給はありません。
給料、賞与の話を含め、ポスドクから民間企業へ転職する前後の年収比較をしていますので、興味がある方は是非ご覧ください。
社会保険が無いという説明は、補足が必要だと思いました。
私自身もポスドクのときには社会保険に加入していましたし、文部科学省の資料にも「ポスドクの社会保険(厚生年金、健康保険の雇用者負担対象者)加入率は約5割。」という記載があります。
絶対に社会保険が無いわけではない、ということは正確な認識が必要です。
【ポスドク問題の解決】卓越研究員制度:企業や研究機関とポスドクのマッチング事業
記事内容の4つ目は、「企業や研究機関とポスドクのマッチング事業である卓越研究員制度」についてのお話です。
また文部科学省において、2016年度から始まった制度で「卓越研究員制度」があります。この制度は、企業や研究機関とポスドクのマッチング事業を行うものです。文部科学省が、若手研究者を審査して、卓越研究員として候補者を決定します。
決定後、企業や研究機関とマッチングを行い、受け入れ企業や研究機関側が、任期なしのポスト、または任期付きのポストを用意するかをあらかじめ明示しなければなりません。そのためポスドクの方の雇用の安定化につながるとされています。
「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」
ー ファイナンシャルフィールド
文部科学省がおこなっている企業・研究機関とポスドクとのマッチング事業「卓越研究員制度」がポスドク雇用の安定化に繋がるという説明です。
卓越研究員制度は、ポスドクが企業就職も含めて次のポジションを見つけられるよう、国がマッチングを支援する制度で、たしかに一部成果につながっている部分はあるようです。
一方で、卓越研究員に採用されるための倍率が非常に高く、ほとんどのポスドクの方は利用することができないという問題点もあります。
また、そもそもこの卓越研究員に採用されるようなポスドクは、放っておいてもすぐに次ポジションを見つけられるような優秀な人材ばかりで、本当に必要な人にまで行き届いているか?と言われると、Noと答えざるをえないような状況です。
卓越研究員に採用されるような優秀なアカデミック人材は、企業志向が小さく、企業側もほとんど採用に繋がらないという実情もあるようです
正直言って、この卓越研究員制度だけでポスドクの雇用安定化につながると言うのは無理があると考えています。
【まとめ】ポスドク問題の解決にはまだまだ時間がかかりそう…
本記事では、ファイナンシャルフィールドに掲載されていた「ポスドクの仕事内容や年収はどのくらい? ポスドク問題について解説」について解説してきました。
- 【ポスドク問題の実態】
ポスドクは非常勤研究員となるため立場が不安定で、アルバイトなどを掛け持ちする研究員もいる - 【ポスドク問題の原因】
ポスドクの人数が増えすぎたことや、受け皿となる大学や企業がいないことが原因 - 【ポスドクの給料】
人文社会系が平均21万円/月、工学系が33万円/月。賞与や、社会保険も無い。 - 【ポスドク問題の解決】
2016年度から始まった「卓越研究員制度」に期待。文部科学省が中心となり、企業や研究機関とポスドクのマッチング事業を行う。
「ポスドク問題」は深刻で、多くのポスドクの方が短い任期付きポジションの中でプライベート面も研究面も苦しんでいる実情があります。
記事内で紹介された卓越研究員制度も解決策の1つではあると思いますが、
- 倍率が高すぎる
- 企業とのマッチングが根本的に難しい制度である
といった欠点があり、完全に解決するためにはまだまだ多くの策を講じる必要があります。
一方、近年ポスドクに対する企業需要は高まっています。
今ポスドクの方は、一歩踏み出せば年収が高く、福利厚生も充実していて、任期もない企業研究職に転職できる可能性は十分あります。
もちろん、大学のメリットもたくさんあるのですぐすぐ結論を出すのは難しいと思います。
まずは忙しい研究活動の間の空き時間を見つけて、自分自身のキャリアを考える時間を作ってみてはいかがでしょうか?
転職を支援してくれる専門サービスも存在します。
職務経歴書へのアドバイスや面談対策、日程調整まで細かにサポートしてくれますので、本気で転職を考えている人は是非調べてみてくださいね
以上で、ポスドク・助教関連ニュースの解説は終わりです。
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お疲れ様でした!