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現在大学で働いているポスドクや任期付きの助教の人の中には、新たな研究環境を求めて民間企業への転職を考えている人もおられると思います。
この記事では、実際に大学・企業の研究環境を経験してきた筆者の実体験をもとにアカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づきについてくわしく説明していきます。
本記事を読み、企業/大学のどちらが自分にあっているかを考えるための参考にしてみてください。
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づきは以下の10点です。
【転職】民間企業への転職難易度は意外と低い
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき1つ目は「民間企業への転職難易度は意外と低いこと」です。
転職前までは、
- これまでずっと大学にいてサラリーマン経験のない自分が採用してもらえるんだろうか?
- 企業の研究職なんて本当に優秀な一握りの人しか行けないんだろうな…
- そもそも研究職の求人なんてどこを探せば見つかるのかも分からない
といったように、自分が通用するのか、どうやって転職活動をすればいいのか分からず、民間企業転職は難易度が非常に高いものと考えていました。
しかし、実際に民間企業転職を成功をさせた今振り返って考えてみると、アカデミックから民間企業への転職はそこまで難易度の高いものではなかったなと感じています。
そのように感じる理由としては、主に以下のような理由が挙げられます。
- 非公開求人の中に自分にあった求人が眠っている可能性が高いから
- アカデミアで磨き上げたスキル・経験は、面接時にうまく伝えることで民間企業でも十分に評価されるから
- アカデミアの中途採用が盛り上がっているから
- 民間企業内でのアカデミア人材需要が高まっているから
【需要】アカデミア人材は企業に求められている
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき2つ目は「アカデミア人材は企業に求められていること」です。
企業に入ってから実感しましたが、大学で身についた研究遂行のためのアカデミックスキルは企業でもそのまま通用する場面が多いです。
アカデミックスキルには、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 論理的思考力
- ライティングスキル
- 発想力(独自アイデア創出)
- 情報収集能力
- 財務管理能力
- 教育能力
etc…
論理的思考力や情報収集能力、教育能力といった能力は、企業で研究を進める場合でも必須のスキルです。
その証拠に、民間企業ではこれらの能力を入社後に鍛えるための階層別研修が必修となっています。
社内研修には莫大な費用がかかっており、そのような投資をしてでも社員に習得してもらわなければならない能力ということです
また、先に挙げた能力の中には、部長級になってから受けはじめるような研修もあります。
つまり、ポスドクや助教の方は、アカデミアでの研究活動という厳しい経験を通して、企業の部長クラスが修得すべき能力をすでに持っている可能性が高いということなのです。
ポスドクや助教の方の中には本当に素晴らしい能力を持った人材がとても多いと感じています
【年収】民間企業の給料は高水準(1.5倍~)
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき3つ目は「民間企業の給料は高水準であること」です。
大学から企業に転職して一番驚いたことが給料の差です。
特にポスドクのときにはほとんどゼロであったボーナスや福利厚生の差が大きく、企業転職後は大学在籍時と比較して1.4~3.6倍もの年収増となりました。
上のグラフは、3年任期のポスドク(特任助教)給料と転職後の企業年収との比較です。
任期3年の特任助教ポジションを1年目で退職しましたので、実際に31歳までは年収360万円となる予定でした。
しかし企業への転職によって、30歳時点で600万円、31歳で1,300万円程度の年収を貰えるようになりました。
入社3年目からは海外駐在+昇進によって大幅な収入増となりました
ポスドクと企業研究者の年収比較の詳細は別記事で紹介しています。
興味のある方は是非ご覧くださればと思います。
【福利厚生】家賃手当や家族手当も充実
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき4つ目は「家賃手当や家族手当も充実していること」です。
非正規職員扱いのポスドクはほとんど福利厚生が使えない一方、企業では年間120万円以上の福利厚生を使えます。
大学 特任助教 | 企業 研究職 | |
---|---|---|
家賃補助 | 0万円/年 | 60万円/年 |
家族手当 (配偶者1名を想定) | 0万円/年 | 25万円/年 |
企業型 確定拠出年金 (DC) | 0万円/年 | 12万円/年 |
カフェテリア 補助 | 0万円/年 | 6万円/年 |
食事手当 | 0万円/年 | 6万円/年 |
自社株買い 補助 | 0万円/年 | 5万円/年 |
財形補助 | 0万円/年 | 12万円/年 |
合計 | 0万円/年 | 126万円/年 |
私も企業就職前は、なんとなく「まあ、企業の方が良いのは良いんだろうなぁ」くらいに考えていましたが、改めて数値にしてみると大きな差があることに驚きました
また、上記の表は入社2年目(30歳)時点の福利厚生を示していますが、3年目から始まった海外駐在では350万円以上の福利厚生を利用できます。
福利厚生だけで一般的な年収レベルの金額をもらえるなんて…
【任期】パーマネント職の安心感で家庭環境も良好に
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき5つ目は「パーマネント職の安心感で家庭環境も良好になること」です。
一般的に任期付きとして雇用される20~30歳代は、研究者の成長という意味でも重要な時期ですが、それと合わせて結婚や出産、子育てといったプライベートな面でも大変重要な時期となります。
これは実際によく聞いた話ですが、付き合っている彼女から「非正規の状態で結婚するのは難しい」と言われなかなか結婚できなかったり、他大学への異動をきっかけに別れてしまったりといったことが多いようです。
彼女さんのご両親に良い顔をされない場合もあるでしょうしね
企業の場合は出産、育児休暇などの福利厚生を取得しやすかったり、給料も国立大学のポスドク・助教よりも高い場合が多いので、安心してより良い家庭環境を築くことができます。
【雑務】分業が徹底されている
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき6つ目は「分業が徹底されていること」です。
民間企業では、仕事ごとに役割分担が徹底されており、研究活動に集中しやすい環境が整っています。
- 実験 → 研究職のスタッフ、現場作業者(派遣社員含む)
- 計算・分析 → 解析部門
- 装置設計・組立 → 生産技術部
- 安全管理 → 安全管理部門
- 契約関係 → 法務部
- 金銭管理 → 経理部、庶務、管理職
- 補助金管理 → 補助金担当部門
- 人事管理 → 人事部
- 教育 → 人事部、管理職
- 出張管理(飛行機のチケット予約など) → 子会社の旅行代理店
- 福利厚生管理 → 子会社の社員サポート会社
etc…
大学で働いていたときは、これらのほとんどを同じ1つの研究室内にいる少人数のスタッフで対応していましたが、企業ではしっかりと役割分担されています。
実験などの自分の本業に集中できるのは嬉しいですね
一方で、係長や部長クラスになると、細かく仕事が分散しているこれら各部門と調整しながらプロジェクトを推進していく必要があります。
非常に時間と労力がかかる仕事になるため、そのプレッシャーは相当なものだと思います。
その分、国立大学と比較し遥かに高い給料をもらうことができますので、大きなプロジェクトを回すことにやりがいを感じる人は積極的に昇進を狙っていくと良いでしょう。
私自身は実験活動が楽しくて仕方がないタイプなので、正直管理職まで昇進しなくても良いかなと感じています。
実験や計算が本当に好きなタイプの研究者にとって、企業の研究環境は本業に集中できる良い環境だと思います。
【業績】評価は論文よりも特許
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき7つ目は「論文よりも特許が評価されること」です。
多くの人がご存知かと思いますが、民間企業の研究部門では、特許が最も重要な評価実績となります。
アカデミアでは論文の質と量が重要だったのと同じような形で、民間企業では特許の質と量が最重要です。
分野にもよるかもしれませんが、企業の研究部門で論文を書く機会はほとんどありません。その代わり、特許については厳しく成果を要求されます
私自身もある程度把握していましたが、想像以上に論文が評価されないことには驚きました。
特許関係の話は研究者の企業転職面接でよく聞かれますので、事前にある程度経験や知識があると良いですね。
【安全】安全対策が厳しく制限が多い
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき8つ目は「安全対策が厳しく制限が多いこと」です。
企業で研究をする際には大学以上に多くのルールがあり、正直この環境では基礎研究は無理だな…と感じる程です。
例えば、新しい薬品を使う際には1ヶ月以上かけて面倒くさい申請を通す必要があります。
また、簡単な装置を組み立てることも基本的には許されておらず、全て社内安全対策を満たした装置であることを生産技術部という他部署と調整しながら長い時間とお金をかけて組み上げていきます。
研究を進める上での不自由さには未だに慣れないままですね…
もちろん、安全対策は悪いことばかりでなく、しっかりとしたマニュアルと安全対策済みの装置のもとであれば、派遣社員を含めた現場の作業者でも安定的に研究を進めることができます。
そのような開発段階での柔軟性のなさを補填するために、企業は高い研究費を払ってでも大学と共同研究をしようとします。
ある程度大学との共同研究で粗く条件だしや装置開発を実施し、その後会社に本格導入するというのがある種鉄板の研究の流れになっていました。
企業と大学は相補的な関係になっているのですね
【教育】バランスの取れた教育システムが整備されている
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき9つ目は「バランスの取れた教育システムが整備されていること」です。
特に大企業では、全ての従業員を一定レベルまで成長させるために充実した教育システムが整備されています。
通常業務に必要な経済、金融、製造等の基礎知識や、企業研究者として重要な特許についても1から学ぶことができます。
語学研修も様々なものが用意されています。
最近はコロナの影響もあってさらにE-learningやオンライン研修が充実してきていますよ
大学では必要な知識は実際の経験を通して学ぶ必要がある場合が多いですが、どうしてもそれだと遠回りになってしまうこともあります。
このような教育を自分自身の支出で受けようと思うと月額数万円~10万円以上の出費となってしまいますので、企業の環境を利用して様々な知識を身につけられるとオトクですね。
【海外】海外駐在・転勤時の待遇が素晴らしい(給料1.5倍~)
アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づき10個目は「海外駐在・転勤時の待遇が素晴らしいこと」です。
ポスドクや助教をされている方の中には、海外学振や国際共同研究強化A・B、または海外研究者との共同研究などで海外で長期間研究されていた、している、あるいはこれからする予定の人も多いことでしょう。
企業の場合ももちろん海外に長期間滞在して研究をおこなう可能性があるのですが、その際の待遇が大学と大きく異なります。
企業で海外駐在する場合、例えば以下のような金銭的補助が追加で受けられるため、額面で1.3倍~1.8倍、手取りで1.5倍~2.5倍程度多くなると言われています。
- 住民税、所得税の一部を会社が負担 (駐在先の税制が大きく異なるため)
- ハードシップ手当 (後進国であれば20~30万円/月もらえることも)
- 住宅手当 (日本勤務時よりも多くもらえる。50~100%会社負担の場合が多い)
- 出張手当 (海外駐在中は長期出張が多くなるため日当等が多くなる)
- 車本体・ガソリン代 (必要経費として100%近く会社が負担)
- お手伝いさん (駐在先によるが、こちらも必要経費として会社負担)
大学の場合だと、ここまで手厚い特別手当をもらえるという話は聞いたことがありませんので、海外経験を積み重ねたい人は企業勤務のほうが有利であるといえます。
実際に私自身も31歳より海外駐在員となりました。
多くの新鮮な経験ができていることに加え、年収も大幅に増えたため非常に満足しています。
【ポスドク・助教】民間企業への転職を成功させるには?
ここまでで、アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づきについてくわしく紹介してきました。
アカデミアと民間企業の違いについてよく理解できました。転職も視野に入れたいと考えているのですが、具体的にどのように行動すれば企業転職を成功させることができるのでしょうか?
現在ポスドク・助教をされておられる方が、民間企業転職を成功させるコツは以下の4点です。
- 【時間の確保】他人を活用して効率的に動くべし
- 【求人探し】非公開求人を探すべし
- 【職務経歴書】企業に受け入れられやすい言葉に「翻訳」すべし
- 【面接対策】企業側の懸念点を理解し面接官を安心させるべし
特に、民間企業の研究職への転職を考えている人は「非公開求人」を徹底的に探すことが重要になります。
大衆向けの就活・転職サイトに登録されている求人を確認したことがある人は多いと思いますが、実はそれらの公開求人の他に、大々的には公開していない非公開求人というものが存在しています。
研究職ポジションなどの専門性が高い職種は、競合企業に内部戦略を知られないように求人を完全公開しないことが多いのです。
非公開求人というものがあるんですね!?
でも、どうやって探せばよいのでしょうか?
非公開求人を確認するための一つの方法は、直接企業に問い合わせてみることです。
もしあなたが、学会や特許情報などを通じて「この企業はこの研究をしているはず」という情報を掴んでいるのであれば、履歴書とともに直接企業に問い合わせることで非公開の求人情報を入手できる可能性があります。
ただ、やはり1社1社直接企業に問い合わせるのも非常に骨の折れる作業になります。
効率的に非公開求人情報を手に入れるには、「転職エージェント」が持っている非公開求人リストを入手するのがおすすめです。
転職エージェントは各企業とマッチングする求職者にだけ求人情報を提示していることから企業と親密な関係を築いることが多く、秘密性の高い非公開求人情報を多数保有しています。
優秀な人材を多数紹介してきた転職エージェントへの信頼性の高さによって、企業側も非公開求人という秘匿性の高い情報を特別に渡しているのですね
そのような非公開求人情報を手に入れられるだけでなく、職務経歴書の添削や面談対策まで、徹底してあなたの転職活動をサポートしてくれます。
ここまで手厚くサポートしてくれる転職エージェントですが、企業からの報奨金で運営しているため転職希望者は完全無料で利用できます。
完全無料で利用できますので、今すぐに民間企業転職を考えてなくても「良い求人が出てきたら紹介してください」とエージェントに依頼しておくのもよいですね
アカデミア出身者 (ポスドク・助教・准教授)に おすすめの転職エージェントは以下の記事でくわしく紹介しています。
メリットだけでなくデメリットも踏まえて解説していますので、民間企業転職を考えている方は是非参考にしてみてください。
【まとめ】大学と企業の年収は1.5倍以上差がつく場合も!
本記事では、アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づきを解説してきました。
- 【転職】民間企業への転職難易度は意外と低い
- 【需要】アカデミア人材は企業に求められている
- 【年収】民間企業の給料は高水準(1.5倍~)
- 【福利厚生】家賃手当や家族手当も充実
- 【任期】パーマネント職の安心感で家庭環境も良好に
- 【雑務】分業が徹底されている
- 【業績】評価は論文よりも特許
- 【安全】安全対策が厳しく制限が多い
- 【教育】バランスの取れた教育システムが整備されている
- 【海外】海外駐在・転勤時の待遇が素晴らしい(給料1.5倍~)
特に給料面の違いは企業と大学で大きく異ることに気が付きました。
海外駐在員になれば、20代であっても余裕で1000万円/年を超えます。
民間企業転職は、年収の他にも任期や勤務時間の点で優れている場合が多いので、そのような情報を踏まえて一度あなたの将来のキャリアを見つめ直してみてはいかがでしょうか?
転職を支援してくれる専門サービスも存在します。
職務経歴書へのアドバイスや面談対策、日程調整まで細かにサポートしてくれますので、本気で転職を考えている人は是非調べてみてくださいね
以上で、アカデミアから民間企業に転職してみて感じた気づきの紹介は終わりです。
質問等ありましたら、問い合わせフォームもしくはTwitterからお問い合わせください。
お疲れ様でした!