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現在大学で働いているポスドクや任期付きの助教の人の中には、新たな研究環境を求めて民間企業への転職を考えている人もおられると思います。
民間企業の待遇面の良さは聞いたことがあっても、研究環境に関する情報は少なく、転職を考えている人にとっては気になるポイントの1つですよね。
この記事では、実際に大学・企業の研究環境を経験してきた筆者の実体験をもとに民間企業の研究環境のメリットとデメリットをくわしく説明していきます。
本記事を読むことで、自分が企業/大学のどちらの研究環境があっているかを判断できるようになりますよ。
【研究環境】民間企業のメリット
研究環境面での民間企業のメリットは以下の5点です。
メリット①:役割分担が徹底されている(雑務が少ない)
研究環境面での民間企業のメリット1つ目は「役割分担が徹底されていること」です。
民間企業では、仕事ごとに役割分担が徹底されており、研究活動に集中しやすい環境が整っています。
- 実験 → 研究職のスタッフ、現場作業者(派遣社員含む)
- 計算・分析 → 解析部門
- 装置設計・組立 → 生産技術部
- 安全管理 → 安全管理部門
- 契約関係 → 法務部
- 金銭管理 → 経理部、庶務、管理職
- 補助金管理 → 補助金担当部門
- 人事管理 → 人事部
- 教育 → 人事部、管理職
- 出張管理(飛行機のチケット予約など) → 子会社の旅行代理店
- 福利厚生管理 → 子会社の社員サポート会社
etc…
大学で働いていたときは、これらのほとんどを同じ1つの研究室内にいる少人数のスタッフで対応していましたが、企業ではしっかりと役割分担されています。
実験などの自分の本業に集中できるのは嬉しいですね
一方で、係長や部長クラスになると、細かく仕事が分散しているこれら各部門と調整しながらプロジェクトを推進していく必要があります。
非常に時間と労力がかかる仕事になるため、そのプレッシャーは相当なものだと思います。
その分、国立大学と比較し遥かに高い給料をもらうことができますので、大きなプロジェクトを回すことにやりがいを感じる人は積極的に昇進を狙っていくと良いでしょう。
私自身は実験活動が楽しくて仕方がないタイプなので、正直管理職まで昇進しなくても良いかなと感じています。
実験や計算が本当に好きなタイプの研究者にとって、企業の研究環境は本業に集中できる良い環境だと思います。
メリット②:研究費が潤沢にある
研究環境面での民間企業のメリット2つ目は「研究費が潤沢にあること」です。
大学の若いポスドク、助教は、自分自身で獲得できる予算は多くても年間500~1,000万円くらいかと思います。
教授のお金も含めた研究室全体で見ても、1億円/年あればかなり規模の大きい研究室と言われます。
一方企業の場合は、1テーマに年間数億円の予算がつくことも珍しくなく、非常に規模の大きな研究ができます。
事業化に近ければ近いほど、企業は研究投資を惜しみませんもんね
特に、企業も手を出しているような実用的なテーマで研究されておられる方にとっては、大きなお金を使って一気に研究を進めることができる企業研究所は良い選択肢になりえます。
メリット③:分析装置や計算部隊が充実している
研究環境面での民間企業のメリット3つ目は「分析装置や計算部隊が充実していること」です。
大学でも研究資金が潤沢な研究室には良い分析装置がたくさん置いてあることもありますが、一方で共有設備になっている分析装置の予約合戦を繰り広げながら日々研究を進めているという研究者も多いと思います。
企業(特に大企業)の場合は、分析装置が充実していることが多いです。
解析を専門とする部隊や、場合によっては1研究部門にも億円規模の最新装置が保有してあるということも珍しくありません。
入社当初の研究部門見学で、数億円以上する電子顕微鏡などの装置が複数部門に渡って何台も置いてあったのは大変驚きました…
分析装置だけでなく、CAEシミュレーションや分子動力学計算などの計算を専門とする部隊も用意してあります。
社内で依頼すればわずか数週間で一定の成果を出してくれる場合が多く、「自分一人ではなかなか計算まで手を出せない…」という人・グループも、しっかりと実験・計算が一体となった研究成果を出すことができます。
メリット④:テーマ加速時の「ヒト・モノ・カネ」の投資の仕方が尋常じゃない
研究環境面での民間企業のメリット4つ目は「テーマ加速時の「ヒト・モノ・カネ」の投資の仕方が尋常じゃないこと」です。
民間企業には、社内に潤沢なリソース(ヒト・モノ・カネ)を保有しています。
ある研究テーマが順調に成果を挙げ、事業化までの道のりが見えた瞬間、その巨大な研究資源を大量につぎ込んで一気に製品化まで持っていってしまいます。
これは大学ではなかなか感じる事ができないような規模のものだと感じました
例えば、大学で研究していてScience、Natureクラスの成果が出たとしても、いきなりそのチームに数百億円規模の予算がつくことも無ければ、数百人に上る人員投入が行われることもありません。
しかし、これが企業では起こりうるということですので、どれだけその加速力が尋常でないか想像していただけるかと思います。
自分の研究成果が社会に役立つところを見ることに喜び、達成感を感じるという人は、企業の潤沢な研究リソースを活用して研究してみるのが向いているかもしれません。
メリット⑤:学生を1から教育する必要がない
研究環境面での民間企業のメリット5つ目は「学生を1から教育する必要がないこと」です。
大学で研究を進めるときの悩みの1つが、1~3年間で卒業してしまう学部生、修士学生を毎年育てなければいけないということです。
人材育成が大学の最も大きな役割であることは重々承知しています。
しかし、ようやく研究に慣れてきたかなという修士2年の学生が、そのまま論文も書くことなく卒業してしまうのは、毎年なんとも言えない悲壮感を感じていたものです。
しかし企業では、一度入社した社員は基本的には5年間以上の長期でその部門に居続けることがほとんどで、最初の1、2年で教育してしまえばそのまま重要な戦力として活躍してくれます。
博士卒の場合は、入社当初からそのテーマにおける即戦力として活躍してくれる場合がほとんどですので、非常に研究の進捗が早いです。
教育活動そのものよりも、とにかく新たな発見をしたい、少しでも早く製品化にこぎつけたいという人にとっては、企業研究所は良い研究環境になります。
【研究環境】民間企業のデメリット
研究環境面での民間企業のデメリットは以下の4点です。
デメリット①:新規テーマ創出が難しい
研究環境面での民間企業のデメリット1つ目は「新規テーマ創出が難しいこと」です。
メリット②:研究費が潤沢にある で民間企業では研究費をたくさん使えると説明しました。
ただし企業の研究費には問題があり、新しいテーマ、実験を試してみたいと思い100万円程度の予算が必要になったとしても新テーマにはなかなか予算をつけてもらえません。
大学であれば、比較的用途が自由な科研費や共同研究費、民間予算などを取ることで、研究テーマの「種まき」をすることができます。
一方企業では、
- 新しいテーマが成功したときにどのくらいのリターンが見込めるか?
- どのような道筋でいつまでに製品化できるか?
- 「今」、「この会社」がすべき研究なのか?
などの研究計画を徹底的に考えて説明資料を作成し、上層部を納得させた上で、ようやく100~200万円程度の投資をしてもらえるようになります。
入社してから「科研費に申請できればなぁ」と思ったことが何回もありました…
- 大きなお金を動かして目の前の成果を確実に取りに行くか?(企業)
- 柔軟に予算を分配しながら将来的に大きな発見につなげるか?(大学)
このあたりは各研究者によって合う合わないが分かれるところかなと思います。
私自身は、自分のしている研究が社会に役立つことに喜びを感じるタイプなので、どちらかというと企業研究のほうが合っているのかなと思っています
デメリット②:安全対策が厳しすぎる
研究環境面での民間企業のデメリット2つ目は「安全対策が厳しすぎること」です。
2つ目の規則についてですが、企業で研究をする際には大学以上に多くのルールがあり、正直この環境では基礎研究は無理だな…と感じる程です。
例えば、新しい薬品を使う際には1ヶ月以上かけて面倒くさい申請を通す必要があります。
また、簡単な装置を組み立てることも基本的には許されておらず、全て社内安全対策を満たした装置であることを生産技術部という他部署と調整しながら長い時間とお金をかけて組み上げていきます。
研究を進める上での不自由さには未だに慣れないままですね…
もちろん、安全対策は悪いことばかりでなく、しっかりとしたマニュアルと安全対策済みの装置のもとであれば、派遣社員を含めた現場の作業者でも安定的に研究を進めることができます。
そのような開発段階での柔軟性のなさを補填するために、企業は高い研究費を払ってでも大学と共同研究をしようとします。
ある程度大学との共同研究で粗く条件だしや装置開発を実施し、その後会社に本格導入するというのがある種鉄板の研究の流れになっていました。
企業と大学は相補的な関係になっているのですね
デメリット③:承認作業が面倒くさい
研究環境面での民間企業のデメリット3つ目は「承認作業が面倒くさいこと」です。
企業で働いていると、様々な場面で承認作業がつきまといます。
例えば、
- 出張旅費申請
- 学会・論文発表申請
- 固定資産投資
- 設備の稼働許可
- 現場作業者への作業依頼
etc…
など、都度上司や他部門の承認をもらう必要があります。
特に学会発表や論文発表に関しては、大学では全く押印は不要だった分、面倒くさいなと感じています…
企業にとっては社外に情報を出すことに敏感になるのは仕方がないですよね…
デメリット④:マネージャーにまで昇進すると自身で実験する時間はほぼない
研究環境面での民間企業のデメリット4つ目は「マネージャーにまで昇進すると自身で実験する時間はほぼないこと」です。
メリット①:役割分担が徹底されている(雑務が少ない) で、民間企業は役割分担がしっかりとしていて研究活動に集中できると説明しました。
しかし、マネージャーは別で、これらの役割分担された各部門の仕事を全て把握し、的確に指示、取りまとめをする必要があります。
非常に労力と時間がかかりますので、自分自身で実験や計算をするような余裕はほとんどありません。
企業の管理者は給料が高い分、やはりそれなりの労力とマネジメント能力が必要なんですね
ただ、大学でも教授になってしまうとマネジメント業務ばかりになってしまう人も多いのではないでしょうか?
研究のプロが現場を見れなくなってしまうというのは残念に感じる部分もありますが、これは企業だけでなく研究界全体の問題のようですね。
【ポスドク・助教】民間企業への転職を成功させるには?
ここまでで、民間企業の研究環境のメリットとデメリットをくわしく紹介してきました。
民間企業と大学それぞれのメリット・デメリットは理解できました。
私はどちらかというと企業研究所が合っていると感じたのですが、具体的にどのように行動すれば企業研究所への転職を成功させることができるのでしょうか?
現在ポスドク・助教をされておられる方が、民間企業転職を成功させるコツは以下の4点です。
- 【時間の確保】他人を活用して効率的に動くべし
- 【求人探し】非公開求人を探すべし
- 【職務経歴書】企業に受け入れられやすい言葉に「翻訳」すべし
- 【面接対策】企業側の懸念点を理解し面接官を安心させるべし
特に、民間企業の研究職への転職を考えている人は「非公開求人」を徹底的に探すことが重要になります。
大衆向けの就活・転職サイトに登録されている求人を確認したことがある人は多いと思いますが、実はそれらの公開求人の他に、大々的には公開していない非公開求人というものが存在しています。
研究職ポジションなどの専門性が高い職種は、競合企業に内部戦略を知られないように求人を完全公開しないことが多いのです。
非公開求人というものがあるんですね!?
でも、どうやって探せばよいのでしょうか?
非公開求人を確認するための一つの方法は、直接企業に問い合わせてみることです。
もしあなたが、学会や特許情報などを通じて「この企業はこの研究をしているはず」という情報を掴んでいるのであれば、履歴書とともに直接企業に問い合わせることで非公開の求人情報を入手できる可能性があります。
ただ、やはり1社1社直接企業に問い合わせるのも非常に骨の折れる作業になります。
効率的に非公開求人情報を手に入れるには、「転職エージェント」が持っている非公開求人リストを入手するのがおすすめです。
転職エージェントは各企業とマッチングする求職者にだけ求人情報を提示していることから企業と親密な関係を築いることが多く、秘密性の高い非公開求人情報を多数保有しています。
優秀な人材を多数紹介してきた転職エージェントへの信頼性の高さによって、企業側も非公開求人という秘匿性の高い情報を特別に渡しているのですね
そのような非公開求人情報を手に入れられるだけでなく、職務経歴書の添削や面談対策まで、徹底してあなたの転職活動をサポートしてくれます。
ここまで手厚くサポートしてくれる転職エージェントですが、企業からの報奨金で運営しているため転職希望者は完全無料で利用できます。
完全無料で利用できますので、今すぐに民間企業転職を考えてなくても「良い求人が出てきたら紹介してください」とエージェントに依頼しておくのもよいですね
アカデミア出身者 (ポスドク・助教・准教授)に おすすめの転職エージェントは以下の記事でくわしく紹介しています。
メリットだけでなくデメリットも踏まえて解説していますので、民間企業転職を考えている方は是非参考にしてみてください。
【まとめ】あなたにあった環境で研究活動を続けよう!
本記事では、民間企業の研究環境のメリットとデメリットをくわしく解説してきました。
まずは、実際に企業研究所で働いて感じている企業研究環境のメリットを紹介しました。
- 役割分担が徹底されている(雑務が少ない)
- 研究費が潤沢にある
- 分析装置や計算部隊が充実している
- テーマ加速時の「ヒト・モノ・カネ」の投資の仕方が尋常じゃない
- 学生を1から教育する必要がない
次に、企業で感じている研究環境面でのデメリットを解説しました。
企業と大学の研究は、互いに相補的な関係にあり、それぞれメリットとデメリットがあります。
待遇面の違いも含め、
自分がどちらの研究環境が合っているか?
今後どこで研究活動を続けいていくべきか?
を考えてみてください。
以上で、民間企業の研究環境のメリットとデメリットの解説は終わりです。
質問等ありましたら、問い合わせフォームもしくはTwitterでからお問い合わせください。
お疲れ様でした!